「高萩!」
部長の中沢に呼ばれた。
大方、 早く電話応対に取りかかるように言われるのだろうと思いながら、 甲大は中沢部長の席まで近づいていった。 だが、 部長の口から発せられた命令は、 少々意外なものだった。
「急いで本社に向かってくれ」
「はあ·····本社、ですか」
都心にある本社まで行くのには、 自動車で大体二時間はかかるだろう。もちろんいけない距離ではないが、 問題はわざわざそこまで行く理由だ。
「本社に指示を仰がなくちゃならん」
部長は頬杖をつきながらそう言った。
もちろん、 今の事態からしてそれはその通りなのだろうが、 なぜわざわざ直接行く必要があ るのだろうか。
「本社の方は何と言っているのです?」
甲大は当然、 すでに部長は本社に現状を報告しているものだと思っていた。 だからこそこう 訊いたのだが、 部長の返事はさらに子想外なものだった。
「······電話が通じないんだ」 「へ? 本社とですか? ならメールは?」
「へ? 本社とですか? ならメールは?」
「それも届かない·····まったく 、 わけがわからんよ」
「もしかしたら······センターだけではなく、 この会社そのもののシステムがダウンしているん じゃないですか? だから電話もメールもー」
甲大は言いかけた言葉をそこで止めた 。
会社の電話が使えないーそんなわけはないじゃないか。 ならば今、この部屋で鳴り響いて いるコール音は何だというのだ。 同僚たちが今、手に取っている機械の名前は何だ?
そう。 「電話」 だ。
「とにかく、連絡が取れない以上、 誰かが直接本社に行くしかない。 お前は本社の人間にも顔 が知られているからちょうどいいだろう」
当初、甲大が入社するのは都心にある本社の方のはずだった。 父の知り合いがいたのが、 そ ちらだからだ。 しかしまあ、 様々な事情というか、 コネにも色々と限界があるというか、 最終的に甲大が入ったのは地元でもあるこの鶴黄支社だったというわけである。
「ーーわかりました。 じゃあ行ってきます」
甲大に上司からの命令を断る理由も権限もない。 彼は頷き、 一旦部長に背を向けたが、 何か を思い直してもう一 度部長と顔を合わせた。
「·······とはいっても、 僕、 今来たばかりで、 いまいち状況を把握し切れていないのですが」
「それは皆同じだよ。 もう少し詳しい事がわかったら、 追って携帯に連絡する」
「······電話、 通じますかね?」 部長は無言で電話の受話器を持ち上げ、 ダイヤルボタンを押しはじめた。 ほどなくして、 甲大の携帯電話の着信音が鳴りはじめた。 彼がそれに出ると、 電話から目の前にいる部長の声が聞こえてきた。
「通じるみたいだな」
「ですね」
「さ、 早く行け」
部長の中沢に呼ばれた。
大方、 早く電話応対に取りかかるように言われるのだろうと思いながら、 甲大は中沢部長の席まで近づいていった。 だが、 部長の口から発せられた命令は、 少々意外なものだった。
「急いで本社に向かってくれ」
「はあ·····本社、ですか」
都心にある本社まで行くのには、 自動車で大体二時間はかかるだろう。もちろんいけない距離ではないが、 問題はわざわざそこまで行く理由だ。
「本社に指示を仰がなくちゃならん」
部長は頬杖をつきながらそう言った。
もちろん、 今の事態からしてそれはその通りなのだろうが、 なぜわざわざ直接行く必要があ るのだろうか。
「本社の方は何と言っているのです?」
甲大は当然、 すでに部長は本社に現状を報告しているものだと思っていた。 だからこそこう 訊いたのだが、 部長の返事はさらに子想外なものだった。
「······電話が通じないんだ」 「へ? 本社とですか? ならメールは?」
「へ? 本社とですか? ならメールは?」
「それも届かない·····まったく 、 わけがわからんよ」
「もしかしたら······センターだけではなく、 この会社そのもののシステムがダウンしているん じゃないですか? だから電話もメールもー」
甲大は言いかけた言葉をそこで止めた 。
会社の電話が使えないーそんなわけはないじゃないか。 ならば今、この部屋で鳴り響いて いるコール音は何だというのだ。 同僚たちが今、手に取っている機械の名前は何だ?
そう。 「電話」 だ。
「とにかく、連絡が取れない以上、 誰かが直接本社に行くしかない。 お前は本社の人間にも顔 が知られているからちょうどいいだろう」
当初、甲大が入社するのは都心にある本社の方のはずだった。 父の知り合いがいたのが、 そ ちらだからだ。 しかしまあ、 様々な事情というか、 コネにも色々と限界があるというか、 最終的に甲大が入ったのは地元でもあるこの鶴黄支社だったというわけである。
「ーーわかりました。 じゃあ行ってきます」
甲大に上司からの命令を断る理由も権限もない。 彼は頷き、 一旦部長に背を向けたが、 何か を思い直してもう一 度部長と顔を合わせた。
「·······とはいっても、 僕、 今来たばかりで、 いまいち状況を把握し切れていないのですが」
「それは皆同じだよ。 もう少し詳しい事がわかったら、 追って携帯に連絡する」
「······電話、 通じますかね?」 部長は無言で電話の受話器を持ち上げ、 ダイヤルボタンを押しはじめた。 ほどなくして、 甲大の携帯電話の着信音が鳴りはじめた。 彼がそれに出ると、 電話から目の前にいる部長の声が聞こえてきた。
「通じるみたいだな」
「ですね」
「さ、 早く行け」